SIC-MOSパワーアンプ
1.回路検討  
 10月13日に行われた金田アンプ試聴会に参加しSIC-MOSアンプの可能性を知り是非作ってみようと行動に移しました。先生の完成された回路をコピーするのは簡単ですが、違ったアプローチの回路を検討して進めることにしました。
一般的なアンプではNchとPchのMOSトランジスタが必要になりますが、SICはNchしかないので(技術的には作ることができますが1ライン作るほどの需要が無い)昔に戻ってインバ−テッドダーリントン接続にしました。
2.SIC-MOS特性    
 採用したロームのトランジスター特性を下にアップしておきます。
わかりづらいですが、100〜200mAのアイドリングを流すためには、ゲート・ソース間に4V台の電圧をかける必要があります。また温度特性が、16mV/℃ほどあるのでバイアス回路で温度補償させます。 
SCT2080KE
   ロームのSIC MOS-FETを使用します。秋葉原の若松通商や千石,海神無線で購入することができます。
これは、SCH2080KEからサージ吸収用ショットキーダイオードを取ったタイプで当然出力容量が少なくなっています。MJ5月号に掲載されていますが、SCTMU001Fというオーディオ用SIC−MOSトランジスターが秋頃発売になります。
耐圧を400V,電流20A,許容損失132Wで、パッケージが小型になった物です。 数十Wのパワーアンプにはこちらの方がよいかもしれません。
 
SCS120AG 
   ロームのSICショットキーダイオードです。600V耐圧の製品にはこの他に6Aと10A品がありますが電流容量が大きいほど超低域まで迫力のある出力が得られます。
これは特性を測定して違いがわかるものではありません。あくまでも試聴評価の結果によるものです。
3.金田式パワーアンプ  
 SICのMOSトランジスタも種類が増えてきて入力容量の比較的小さいものも手に入るようになったのでシンプルな金田式パワーアンプを設計することにしました。ターンテーブルモーター駆動用アンプと同様です。
   2019/8/30
 作成していただいた基板をそのまま流用します。他でも説明していますが、この回路は出力段のアイドリング電流の温度補償をJFETで行っている点になります。
左上の定電流回路とパラに抵抗が入っている部分がそれになります。出力トランジスタにJFETを熱結合させます。
2SK366という小型パッケージ品をIqポイントより低い電流値で動作させることにより高温で両端の電圧が下がるように動作します。.
IdssがBLランク以上の時とGRでは温度に対する電流変化量が違うのでパラに入る抵抗値で調整が必要です。GRでは3kΩ以下ぐらいでBLで4kΩ、Vで5kΩぐらいが目安です。
   2019/8/31
 dcamp.bizよりこの回路で基板制作したボードの発売が近々行われるようです。一般家庭用パワーアンプとして実用できる製品だと思います。出力段にSCT2H12NZを使用することでプリドライブ段を省き、ジャンクションFETの温度特性を利用して出力電流の温度制御を行っているのが特徴です。
   2020/1/17
4.使用キーデバイス  
■ SCT2H12NZ
   SCT2450KEのさらに1/2の能力ですが、入力容量が1/2になりますのでドライブ段を無くしても満足できる性能が得られると思い採用しました。
フルモールド品なので放熱も簡単でシンプルパワーアンプとして最適な素子です。
一般家庭でのスピーカードライブや大型のミッドレンジ以上のスピーカーのパワーアンプとして使用可能です。
■ SCS120AG
   SICによる600V20Aのショットキーダイオードになります。シリコンダイオードに比べ逆回復時間がほとんど0に近く真空管の整流管と同じような動作が可能です。
さらにオン抵抗が小さいので理想に近い整流動作が可能です。
電源にこのダイオードを採用してから整流管(真空管)を使わなくなりました。
 5.パワーアンプU  
 友人からパワーアンプの修理を依頼されて確認したところ出力のトランジスタが壊れていたため内部回路を新しく作り直すことにしました。元々が金田式のA級30WでしたがAB級の30Wにすることにして検討を始めました。
SCT2H12NZでも問題ないのですが余裕のある一つ上のSCT2450KEを使って設計を始めました。フィデリックスの中川さんからオールFETの音が好きだと聞かされていたので1度作ろうと思い下に掲載した回路になりました。
   2020/3/8
  
 初段は2SK97か2SK185などを想定しカスケードTrはMOSの記号ですが2SK246を採用します。
2段目は現在購入可能なMOSの2SJ509を使用します。前の回路では初段の定電流でIqポイントの下側の温度特性を利用して出力段の電流の温度補償をしたのに対し、今回は2段目の定電流にIqポイント以上の電流を流すことにより温度補償を行います。(温度が上がると電流が下がりバイアス電圧を下げる動き)SCT2450は入力容量など倍以上になりますので2段目の電流も増やしました。
この回路は、初段の温度特性はほとんど無視できるのでほぼ2段目の定電流で最終段のアイドリング電流の温度補償を行うことができます。
初段の定電流は2SK303_3から2mAほどのもの、次段の定電流は2SK246BLを採用します。
   2020/5/2
 金田先生設計の保護回路をdcamp.bizが基板作成したものを利用させてもらいました。
最近はMOSトランジスタも小型化などによる廃番が進み代替え品を探すのに苦労します。NO.222のようにPchとNchのスイッチを使用した回路構成が理想ですがPchの低オン抵抗の製品が手に入りにくいのでNchだけで構成したこの回路を採用することにしました。定数は異なりますがNO.225の回路を採用しました。
回路動作に勘違いされているものが見受けられますので下記に示します。
  
動作説明
   Tr1とTr5がNchのMOSトランジスタでON抵抗の低いタイプを使用します。共にゲート〜ソース間にツェナーダイオードを入れてON時にツェナー電圧でクランプされるように動作します。この回路にはセンシング部分がか書かれていませんがDC電圧を検出するとDETN端子がLowになりNAND出力の13番ピンがHighになります。13番出力と10番出力のNANDはRSフリップフロップを構成していますので10番出力はLowになります。
Tr2のベースには約0.5mAの電流が流れてONになり、またTr3にも10kの抵抗により0.5mAほどのベース電流が流れてONになります。そのためTr1のゲート電圧はTr2によりグランドにショートされ、またTr5のゲートとソース間がショートされます。Tr1のソース電圧はツェナーダイオードの順方向電圧(約0.7V)により同時にグランドレベルに押し下げられます。(Tr2のON時のコレクタ電流能力が0.5mA×hfeしかないのでサージ電流で壊れることもありません)Tr5は、Vgsが0VになるのでOFFします。
 金田先生のパワーアンプそのままの設計では問題は起こりませんが、もし保護回路の出力側に大きなコンデンサを付けたりするとコンデンサーに充電されている電荷をTr2により放電させるので発熱により壊れる可能性があります。
 使われ方を間違わなければゲート〜ソース間にツェナーダイオードを入れる回路構成はMOSのゲート保護をかねますので有効な設計です。電源ラインは外部からのサージ電圧が入り込みやすいので保護が必要になります。MOSトランジスタによってはゲート保護としてツェナーが内蔵されているタイプもあります。
   
 
 前の回路基板を流用させてもらうため左の2カ所の配線をカットしました。
裏の2カ所をリード線で繋げて出力段に別電源を入れることで制作できます。
写真には温度補償用のFETや一部のコンデンサが入っていませんがほぼ完成です。
入力のFETは2SK185というSONY製を使いました。
   2020/4/12
 初段・次段へ供給するレギュレータを下に掲載します。 基板はdcamp.bizの制作したものを流用させていただきましたので簡単にできあがりました。
  2020/4/28
 
左の整流ダイオードの手前には2200μF以上の電解コンデンサーを入れる予定です。
動作確認は、外部より32Vの半波整流を電解コンで直流に変えて入力しました。
2SK303を1.5mAほどになるようソース側の抵抗を調整し帰還側の抵抗20kを18kに変更して約35Vの出力を得ました。
出力電圧は±1Vぐらいは許容範囲なので固定抵抗で進めましたが最適電圧を得るのであればどちらかを可変抵抗に置き換えればよいと思います。
   2020/04/28
 レギュレータの入出力間ロスが大きい回路を採用しているのであまり大きくない物を検討してみました。
入力のリップルリジェクションを良くするには定電流回路はカスケードでドレイン電圧の変動を抑えてあげる必要があります。また、出力電流の変動による出力電圧変化を抑えるため制御トランジスタをFETにしてベース電流の影響を無くした回路としました。
 位相補償は、発振は見られないのですが高周波(10KHz以上)による負荷変動に対して効果があります。
   2021/12/25 up
 
 2SK246での評価を初めて問題が発生しました。容量 成分だけ気にしていたのですがgm小さくなるため直接ドライブできません。スルーレートの問題が発生しました。バッファを設ければ問題なくなるのですがそれでは意味がないので違うトランジスタを検討します。SCT3120ALがgm(2.7)ほどあるのっで改善できると考えています。
   2020/6/20
 
   左の写真がSCT3120ALSTC2450になります。
スペック上はgmが違うだけでしたが、パワーアンプで使う電圧範囲では帰還容量がSCT3120ALは結構大きな値になります。金田式は、出力段も電圧ゲインを持つため入力容量にゲイン倍の帰還容量がプラスされるので変更するだけの効果があまりない事がわかりました。
そこで2段目の電流を2倍ほどに増やすことで改善することにしました。
また、STC2450はgmが低いのでゲート・ドライブ電圧が必要な為ドライブ段の電源電圧を36Vから39Vにあげました。
これにより4Ω負荷まで対応させました。それ以上の低負荷を考えると
SCT3120ALにした方が良いことになります。
このアンプの良いとこは、温度補償が良いところです。
満足の結果となりました。     完成!
    2020/8/9
   

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