第一章 真空管とその低周波特性 2
1.4真空管の低周波特性(2)
〔1〕 遮蔽格子四極管  
   四極真空管のうち、図1.9のように第一格子(陰極に近い格子)に入力信号を加え、第二格子に一定の直流電圧を与えて使用するものが遮蔽格子四極管(screen-grid tetrode)である。

G1:制御格子
G2:遮蔽格子
【図1.9】
第一格子を制御格子(control grid),第二格子を遮蔽格子(screen grid )という。
 三極真空管は陽極と格子の間に存在する静電容量のため、高周波信号を増幅する際に陽極側に出てきた高周波がこの静電容量を通って格子側にもどってきて増幅作用を妨げる。
 これを防ぐために陽極と格子の間に遮蔽するのが遮蔽格子の作用であって、このために高周波の増幅が安定に行われる。
また、遮蔽格子に一定の正電圧を与えてあるので、陰極から放出された電子を引き寄せて陽極に流入させる働きをする。
   このため陽極電圧が遮蔽格子の電圧より高い範囲では陽極電流は制御格子の電圧によってかなり変わるが、陽極電圧よってはあまり変わらない。このことは低周波においても電圧増幅作用を大きくしている。
しかし、その特性には図2.0に示すように陽極電圧の低いところで乱れがでてきていて、そのために陽極 電圧が低くなると歪が生じ、大きな出力がとれないという欠点があるので高い陽極電圧を用いる送信管の一部を除いては現在では用いられない。この欠点を除いたものが五極真空管およびビーム菅である。
特性曲線の乱れはおもに陽極から二次電子放出によって生ずる。すなわち、陽極に電子が突入すると陽 極からは二次電子が放出されるが、陽極電圧が低いときにはこれがもっと電位の高い遮蔽格子に捕らえられ、その分だけ陽極電流が減り、遮蔽格子電流が増す。
陽極電圧が低いうちは陽極電圧が増すと二次電子の量が増し、かえって陽極電流が減るが、陽極電圧が遮蔽格子電圧より高くなると二次電子はふたたび陽極に戻るのである。

〔2〕 空間電荷格子四極真空管  
   三極真空管では負電位をもった格子が陰極の近くにあるため、陰極から放出された電子をふたたび陰極の方へ追いかえそうとする作用が強く、陽極電圧を高くしないと充分な陽極電流が流れなかった。

【図2.1】
ところが図2.1のように第一格子に一定の正電圧を与え、第二格子を制御格子として使用すると第一格子,陽極の電圧が低くて10V程度でも充分な陽極電流が流れる。
  第一格子を空間電荷格子(space charge grid),この真空管を空間電荷格子四極真空管(spacecharge grid tetrode)という。
この真空管には低いB電源電圧で使用する電池管と、微小電流測定用真空管とがある。前者は現在ではほとんど使用されず、後者も特殊なものである。

〔3〕 五極真空管  

G3:抑制格子
【図2.2】
 五極真空管は遮蔽格子四極管を改良したもので、制御格子と遮蔽格子のほかに図2.2に示すように抑制格子(suppressor grid)をもつ。これは通常陰極と接続して用い、遮蔽格子と陽極の間の二次電子のやりとりを防ぎ、陽極電圧が低いときの陽極電流の急変をなくしている。
 五極管の特性の例を図2.3に示す。特別な場合として制御格子と抑制格子にそれぞれ信号入力を加えて使用することもある。




【図2.4】

【図2.3】

〔4〕 ビーム出力管  

【図2.5】
 特殊な電極構造とビーム形成電極(beam-forming electrode)のはたらきによって陽極と遮蔽格子の間の二次電子のやりとりを除いたものがビーム出力管(beam-power tube)である。
 図2.4にその電極の断面を示す。ビーム形成電極は管内で陰極に接続されている。
 特性は五極管のそれに似ている。記号も五極真空管と同じものを用いる。図2.5に特性の例を示す。
 制御格子は、短期間正にまで励振して使用することがあるので、Vg(制御格子電圧)が正のときの特性も示してある。
1.5 格子制御真空管の三定数と等価回路
〔1〕 三定数
  三極真空管,五極真空管など一個の制御格子をもつ真空管の陽極電流Ipは陽極電圧Vpと制御格子電圧Vg の関数であって、
           Ip=f(Vn Vg)
と書くことができる。五極真空管など格子の数の多い真空管では通常他の格子の電圧は一定の値に保たれる。
いま、陽極電圧Vpが微小量ΔVp、格子電圧Vgが微小量ΔVgだけ変化するとき、陽極電流の変化量をΔIpとすると、
           Ip+ΔIp=f(Vp+ΔVp,Vg+ΔVg)
すなわち
           
となる。ここで、
           
           
とおいて、それぞれ内部抵抗(plate resistance),相互コンダクタンス(transconductance)という。これを用いて式は、
           (2.1式)
となる。さらに、
            
を増幅定数(amplification factor)といい、rp,gm,μを合わせて三定数(3 coefficients)という。
Ip,Vp,Vgの間には、
           
という関係があり、これから
           μ=rp・gm
なる関係があることがわかる。
内部抵抗は格子電圧を一定に保つときの陽極電圧の微小変化量に対する陽極電流の変化量の比で抵抗のディメンションをもち、相互コンダクタンスは、陽極電圧を一定に保つときの陽極電流の変化量と、それをひきおこすための格子電圧の比で、コンダクタンスのディメンションをもつ。また増幅定数は陽極電流を一定に保つように陽極電圧と格子電圧を増加させたときの両増加量の比に負号をつけたもので、ディメンションは0で単位は不要である。
両増加量をそれぞれΔVp,ΔVgとするとき、一方が正なら他は負となるので、両者の比に負号をつけることによってμの値は正になる。

〔2〕 等価回路    
  2. 1式をμ=rp・gmを用いて書きなおすと、
          ΔVp=−(μΔVg−rpΔIp)
となる。
これは格子制御真空管における陽極電圧の変化量ΔVp,陽極電流の変化量ΔIp,制御格子電圧の変化量ΔVgの間の関係が陽極と陰極の間にrpという抵抗とμΔVgという起電力が、図2.6(b)に示すように直列に入っていることと等価であることを示すもので、これを真空管の(陽極・陰極間の)等価回路(equivalent  cicuit)という。
ΔVgが正弦波状の時間的変化をしているときには、これをEgとすると、等価回路は図2.7(b),(c)に示したようになる。
(b)は、図2.6(b)に対応するもの、(c)はこれを変形したものである。gmEgは電流のディメンションをもち、常に(すなわち負荷が変わっても)一定の電流を流すような電源で、定電流源または電流源とよばれる。
(b),(c)が等価であることは、Ipなる交流陽極電流が流れるときの陽極・陰極間の交流電圧Epは、(b)では−μEg+rpIp,cではrpを流れる電流がIP−gmEgであることから、
          rp(Ip−gmEg)=rpIp−rpgmEg
で、μ=rp・gmとの関係を考慮すると両者が等しいことで証明できる。
 
  【図2.6】 (a)              (b)
 
  【図2.7】 (a)            (b)            (c)
 
〔3〕 抵抗負荷増幅回路の計算  
   図2.8のような抵抗負荷増幅回路の増幅度を求めてみよう。
等価回路は、図2.9のようになる。
【図2.8】      【図2.9】
  これから陽極交流電流は、
           
陽極交流電圧(これが出力電圧になる)は、
           
従って電圧増幅度は、
           
負号は、出力波形が入力波形の正負を反転したものであることを示している。
正弦波の場合は出力と入力の間に180°の位相差があると考えてもよい。
式を変形すると、
           
が得られる。三極真空管では内部抵抗rpが小さいので、負荷抵抗RをR≫rpとすることができる。
この時は、
           
また五極管では内部抵抗はきわめて大きいので負荷抵抗RはR≪rpと考える事になります。
この時には、
           
となります。
従って三極管ではμが、五極管ではgmの値が大きいことが望ましい。
1.6その他の真空管
 
[1]七極真空管
   スーパーヘテロダイン・ラジオ受信機で発生した高周波と外部からきた無線周波数とを混合し検波して中間周波を入れる二つの制御格子をもった真空管を用いることが多い。これが六極真空管,七極真空管,八極
  真空管で、このうち七極真空管(heptode)が一般的に使われる。
図3.0のように二個の制御格子と、その間および陽極との間を遮蔽
するための二個の遮蔽格子,一個の抑制格子を持つ五格子真空管
(pentagrid vacuum tube)ともいう。
 
 
【図3.0】 七極真空管
[2]同調指示管
    同調指示管は、マジック・アイ(magic eye)とも呼ばれる。これは図3.1に示すように電子の衝突によって蛍光をだす物質を塗った陽極Pのほかに,制御電極G,熱陰極Cからなり三極真空管部と組み合わせて同一管球内に収めたものが多い。
   真空管の上方から陽極の蛍光物質を塗った側が見えるようになって います。
三極管部の格子に正の入力が入ると陽極電流が増し、1MΩ程度の高抵抗Rによる電圧降下のためGの電位が低くなりGの方へは電子がいかないので、電子の衝突する部分が狭くなります。格子電圧が低くなると逆に発光部分が大きくなる。
蛍光面の発光状態が三極管部の格子への入力の大きさを指示するのである。 
【図3.1】マジック・アイ
[3]ゲーティド・ビーム管
    図3.2にこの構造を示す。
加速格子と陽極に適当な正電位を与えると、陰極から出た電子は収束電極によって収束されて陽極に向かうが、その途中にある二つの制御格子によって電子流が制御される。
陽極電流と制御格子電圧との関係は、図3.3に示すようになる。第一制御格子電圧で陽極電流はゼロから最大値まで敏感に変化する。第二制御格子の働きもほぼ同様で、電子の流れを二つの制御格子で開閉する。
ゲーティド・ビーム管は、振幅制限回路とか周波数変調された波形の復調回路に使用される。
FMラジオに使われていた6BN6が代表例である。   
   
【図3.2】ゲーティド・ビーム管 【図3.3】陽極電流制御格子電圧特性
   

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