第二章 真空管増幅回路
2.1 定義    
 増幅(amplification)とは入力信号の電圧または電流波形を変えないで電力を大きくして出力側に伝えることであり、このとき入力信号原と出力負荷の間に入る回路が増幅回路である。入力電圧を正弦波E1とし、複素数(またはベクトル)で表すものとする。
回路にひずみがなければ入力電流I1、出力電圧・電流E2、I2はE1と同じ周波数の正弦波交流となり、かつこれに比例する。
また入出力電力をそれぞれP1、P2とする。
入力インピーダンス(input impedance)Zi、複素電圧利得(complex voltage gain)Ac、 
電力利得(power gain)Apは次のように定義される。なお、複素電圧利得、複素電流利得は略して単に電圧利得、電流利得ということもある。また利得は増幅度ともいう。

     Zi=E1/I1
     Av=E2/E1
     Ac=-I2/I1
     Ap=P2/P1

電流利得の右辺に負号がついているのは出力電流が-I2となるからである。
Av、Acは一般に複素数になる。その絶対値

     Av=E2/E1  , Ac=-I2/I1

は電圧や電流の倍率を示し、単に電圧利得、電流利得と呼ばれる。また、その偏角

は、それぞれ出力電圧と入力電圧、または出力電流と入力電流の間の位相差をあらわす。したがって複素電圧利得や複素電流利得は電圧や電流の利得と位相のずれを同時にあらわすものである。
 E1とI1が同相であるとき、入力インピーダンスは入力抵抗とよんでもよい。電力利得は常に正の実数になる。E1とI1が同相で、かつE2とI2も同相であるとき、電力利得は、

     Ap=P2/P1=Av・Ac

となる。
 次に出力インピーダンス(output impedance)を定義しよう。これは図2.2に示すように入力端子に入力信号源の内部インピーダンスZ1をつなぎ、出力端子からはかったインピーダンスで、

     Z0=E2/I2

であらわされる。E2とI2が同相なら出力抵抗となる。
2.2 基本増幅回路    
 真空管を用いた増幅回路は図2.3に示すように三種の基本回路に分けることができる。
陰極接地型(grounded-cathode type)は格子と陰極の間に入力を加え、陽極と陰極の間に負荷を接続する。陰極が入力端子と出力端子に共通に接続され、ふつうこれを接地して用いるのでこの名がついている。他に、陽極接地型(grounded-plate type)、格子接地型(grounded-grid type)がある。なお、直流電源は図では省略されている。電源の接続法については後に示す。なお、陰極接地型のかわりに共通陰極型(common-cathode typ)などということもある。
つぎに各基本回路で出力端子に抵抗負荷R2を接続したときの性質をしらべよう。
[1]陰極接地回路
回路は図2.3(a)、等価回路は(b)となる。信号入力を正弦波E1とすると、出力電流I2は、

電圧利得は

となる。負荷出力と入力の間に180°の位相差のあることを示していろ。
格子には電流が流れないので電流利得、電力利得は無限大、入力抵抗も無限大である。出力抵抗は真空管の内部抵抗rpに等しい。
[2]陽極接地回路
 回路は図2.5(a)、等価回路は(b)となる。これから、

I2について解いて

電圧利得は

これは1より小さく、R2>>rp/(μ+1)であればほぼ1となる。
入力抵抗は無限大、また電流利得、電力利得も無限大である。
出力抵抗を求めるよう。出力端子に信号電圧をつないだときの等価回路は図2.6となる。これから次の式が得られる。

出力抵抗の値はその真空管の内部抵抗よりはるかに小さくなる。
 陽極接地回路はカソード・フォロワ(cathode follower)ともいわれる。
     

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