FUZZの安定度改善                    
 
1.ゲルマニウムトランジスタ  
 ゲルマニウムトランジスタは、温度安定性がよくなかったため早い段階でシリコントランジスタに置き換わってしまいました。しかし音,音楽の世界ではこのトランジスタでしか出すことのできない音というものが存在し未だにマニアに使われているようです。 今回、私はゲルマを使ってもう少し安定に動作させる回路を作る事に挑戦しようと思いこのページを立ち上げました。
   
2SB324の特性
   左のグラフはトランジスタの特性の中で特に回路の安定性に影響のあるものを2SB324を参考に掲載します。
このトランジスタは、中出力電力増幅用として作られたものでプッシュプルで2Wのアンプを作ることができるものです。
常温でVf(Vbe)が約0.1~0.2Vあり左上のグラフのような温度特性を持ちます。これはシリコントランジスタに比べて大きな変化をもちます。
 左下のグラフは、Icboの温度特性を表しています。このグラフの傾きは、一般的なリーク電流特性をしめしており、10℃変わるごとに2倍の電流変化をしています。 またIcboの値はシリコンに比べ桁違いに大きな数値となっています。 このトランジスタは10μAですが中には100~200μA(max値)もの大きなものもあります。
 部品のゲルマニュウムトランジスタで測定したIceoやIcesとの関係は、

 Ices=リークIce+リークIcb
 Iceo=リークIce+リークIcb×Hfe
 Icbo=リークIcb


正確な式ではないかもしれませんがほぼこのような関係になります。静電気に弱いのでベース・エミッタをショートしてIcesを測定すれば素性がわかります。
 このようなトランジスタをFUZZの回路に使用すると値によっては動作しないものや温度が低い時や高いときに動作しなくなるものがでてきます。 そのためトランジスタの選別を行う必要があります。
 
2.回路動作  
 Tr1のベースにつながる100kの抵抗には、IcboとIbの合成電流が流れます。またコレクタ電流は、負荷抵抗の33kに流れる電流とTr2のIcboの合わせた電流になります。
したがって、100kに流れる電流は、

 Ibr=(Ib×hfe1+Icbo2)/hfe1-Icbo1
 *Ibrは、100kに流れる電流です。

 
本来、Icboが無視できるシリコントランジスタの場合は100kに流れる電流はトランジスタのベースに向かって流れる方向で、2段目のエミッタの電位は初段のベース電圧より高くなります。
これに対し、ゲルマニウムトランジスタはベース電流よりIcbo1の方が大きくなりますので2段目のエミッタ電位が低くなってしまいます。その結果2段目のエミッタ電流は少なくなってしまいます。
初段のIcboが大きいものを使用すると初段は飽和状態になり、2段目はカットオフ状態になってしまい動作しなくなってしまいます。
上の式からわかることは、初段にはできるだけIcboの少ない物でhfeのそれほど高くないものを使用し、2段目は比較的大きなIcboのもので1段目よりhfeの高いものを使用するのがベストということになります。
3.対策回路  
 対策回路を掲載しましたが、初期以降に発売された例えばファズファクトリーなどを見るとほぼ対策された回路になっています。いずれにしてもゲルマニウムトランジスタを使う限りはある程度の温度ドリフトは許容しないといけません。
   2019/12/8 up
 ファズファクトリーの初段は、リーク電流が少ないシリコントランジスタで受けてバイアス抵抗も220kと大きくできています。2段目以降がゲルマニウムトランジスタを使用しコレクタ抵抗を10kほどに下げてコレクタ電流を大きくしています。これによりIceoの影響を約1/3に下げています。さらにベースバイアス抵抗も47kに下げていますので、1~2段目の安定度が向上します。
また、Compボリウムにより最終段含めたバイアス設定が可変できるので音作りに最適なコントロールが可能となっています。他にStability゙ボリュームにより出力信号をフィードバックさせて発振(ギミ)させる機能が追加されています。
次に別のアプローチによる回路を下図に示します。

*定数ミス一部変更 最終回路pdf貼り付けました。
 この回路の特徴は、初段にバッファを置くのは一部の機種でも採用されているので同じ理由によるものであるが、2段目の負荷を抵抗からFETによる定電流にしている事です。
この定電流にプラス(修正)の温度特性を持たせ温度が上がると電流が増えるようにしています。
ゲルマニウムトランジスタのIcbo(リーク電流)は、温度が10度上がると倍に増えます。つまり温度が上がると2段目のコレクタ電流は、(Icbo+Ib)×hfeなので本来の増幅に必要なIbが流れなくなってしまいます。そこで温度が上がるとコレクタ電流を増やしてあげると少しは温度変化に強くなるのではないかと思い作成しました。
SUPER BENDERではバイアスを15kから33kの間で調節するという機能を持たせたりしていますが、それをオートで対応するシステムです。(ここまで調整範囲が無いですが)
NPNの2N1308というリークの少ないトランジスタを使用しました。
2段目の入力に20kを直列に入れてゲインを押さえていますが、ボリュームにするかもう少し抵抗値を下げるか評価により決めるつもりです。
   2021/1/26 up
 定電流用のFETを色々実験してみたのですが、今のところ東芝の2SK170,2SK366が良さそうなことがわかりました。簡易的にドライヤーとアイサーで調べて200μA~400μA(常温300μA)の特性となりました。
最終的な回路評価をしてみたいと思います。
   2021/1/29 up
   

2SK363のId-Vgs特性(温度含む)のグラフです。見てわかるように温度が高くなるとドレイン電流が大きくなります。このグラフはIdが大きいトランジスタですがGRランク以下を選ぶと5mA以下の物がえられます。これをソース抵抗により300μAに絞って使います。

トランジスターによりこの特性は異なりますので注意してください。(2SK30では効果が得られません。)

 2022/2/12 up
 次段の入力抵抗を10kΩにしたときの出力波形です。Fuzzを一番左に絞ったときのゲインになります。定電流負荷にしたのでエミッタ側の抵抗は無くしグランドにショートしました。
約11dBぐらいあります。Fuzzを一番右に回したときのゲインは、37dBほどありました。
出力が抵抗分割で5.4%に減衰させていますので±210mVほどでクリップすることになります。
 この回路は、トランジスタのHfeの温度特性にも影響されますのでIcboと共に補正の効果があります。Hfeは低温で小さくなるのでコレクタ電流が一定だとIbが増えて出力段のエミッタ電位が上がり出力段の電流が増え出力段のコレクタ電圧を下げてしまいます。
低温で2段目(普通のファズの初段)のコレクタ電流を下げてやればベース電流がその分減り出力段のコレクタ電流が増えるのを押さえることができます。
高温では、2段目のIcboの増加に対応してコレクタ電流を増やしてあげれば良いことになります。この二つの補正が温度特性を持たせた定電流回路で実現できるのです。
完璧に補正する事はできませんが、ある程度はこの方法で効果的な動作を実現できます。
最終回路を近々PDFで貼り付けておきます。
   2021/1/30 up
   元々ハイインピーダンスのギターを直接ローインピーダンスの入力で受ける使われ方をしてきたので、ゲルマニウムファズを他のエフェクター(低インピーダンスの出力)の後に入れると期待した音色を作り出すことができません。
今回バッファを入れて高入力インピーダンスで受け入力の影響を受けにくくしていますが、出力には直列抵抗を入れてインピーダンスをある程度高くするようにしています。(高域の周波数特性が異なると思われまが、ギターによる違いは軽減されるはずです。)
ここにギターのピックアップをエミュレートさせるコイルを入れる方法もあると思います。
入力のバッファは2SK30A_GRを選びました。
FUZZボリュームをmaxにすると入力14mVp-p以上でクリップされるゲインを持ちました。
NPNで構成することによりプラス電源9Vで動作しているので外部電源からの供給が可能となります。
4.使用部品  
  ゲルマニウムトランジスタ
   
 ●2SA49
    ラジオのIF用のトランジスタで耐圧は-18VしかありませんがIcboが10μA_maxとゲルマの中では少ないタイプです。
Hfeの100前後あります。
 
 
2SB40
   SW用トランジスタで耐圧は-40Vあります。2SA49同様に
Icboが10μA_maxと少ないタイプです。
 
2N1308
   SW用トランジスタで耐圧は25Vあります。NPNトランジスタでIcboが6μA_maxととても少ないタイプです。
   
5.トーンベンダーⅢ  
 バージョン2までは短期間の生産しかされなかったようで、原因は安定性にあったようです。バージョン3になってからは10年ほど生産され安定性に改善が見られた長続きしたようです。
まだ十分回路動作を理解していないので簡易的温度補正がどのように行われているのかはわかっていません。
クーロンを作るには高価なOC75というゲルマニウムトランジスタを購入しなければならないのでするつもりはありません。回路を理解してアレンジを試みたいと思っています。
  2021/2/23
 ゲルマニウムトランジスタは、Icboが大きい(数μA~十数μA)の電流が流れるためバイアス回路を付けなくてもベースに電流が流れ込み増幅動作をさせることができます。(上の回路では三段目)
ただリーク電流なので温度が10℃上がると約倍に増える温度特性を持ちます。
そうするとコレクタ電流は倍に増えてしまいコレクタ電圧が大幅に変化してしまい出力振幅がとれなくなる事が想定されます。
多分、これをある程度キャンセルさせるのが外付けのダイオードです。逆方向のリーク電流を利用して温度変化に対してベース電流が増えないように分流させる働きがあるのだと思います。
よくある使い方は、初段など出力振幅があまりないところでベース・エミッタ間に外付けの抵抗を使用した回路例がありますが抵抗では温度補正は働きません。
ゲルマニウムダイオードは、物によりリーク電流の値が異なるのでトランジスターとの最適な組み合わせがあるように思います。
   2021/2/27 up
   

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